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言えない追憶(かなしみ)

2009年10月21日 17:51

回想的なプロローグもどきその一。
アンオフィが混じってますので、許容できない!という方は戻る事を推奨します。

それでも大丈夫、という方は下(追記)へどうぞ。



 


多くの者が死に絶えて逝く
私欲に塗れた手によって
育った世界を壊された 死する屍もの言わず 
父母の約束違えぬと 妹の幼き手をひく 時遅く
己が在った場所が消えてゆく
おだやかであった場所が消えてゆく
何故 何故 何故 
心は一つ 彼岸へ辿る 陰は一つ 植えついた
やがて来たる死は待たず
血に飢え復讐猛らせるは剣豪悪鬼
射竦めるは朱の眼睛 振るい乱すは紅の長髪
死闘の刹那月下に浮かぶは怒れる瞳と怨みの言葉
かつて何もかもを奪われた故に
緋色に揺らめく心があった
戦い続けるその男、人斬り童子 彼岸花――――














――――2007年、9月8日。

奈良県御所市は南西に位置する葛城山、
事情により一時立ち入り禁止になっているはずの区域に、二つの影があった。

「……良かったのか、本当に入学しちまってよ」

赤い、まるで燃え盛る炎のように赤い髪をした、長身の男が口を開く。
その視線の先には、対照的に小柄な少年が佇んでいる。腰まである長い髪で、
夜を思わせる黒い色をしてるが、一部の毛先が薄紅色でそれがやや目立つ。
投げかけられた言葉に、周囲にある墓らしきもの、その中の一つを眺めていた視線を男の方へと向けた。

「誘ったのは貴方でしょう、何を今更」

少年の、ルビーのように色鮮やかな紅色の瞳が自分の方へ向けられると、
男はばつが悪そうに目をそらし、頬をかきながら茜色の空を見上げた。

「いやまあ、そうなんだがな。
 それでも気になっちまってよ。後悔してるんじゃねえか、って」

「……自分で決めた事です、後悔はありません。
 銀誓館に入れば強い力を得る事が出来る――
 そう聞いたから俺は入学を決めたんです。そこに、迷いはない」

少々の間の後、そう答えると少年はまた墓らしきものへと視線を戻す。
少年の言葉に、男は少し安心したような、しかしどこか複雑そうな表情を浮かべる。
男も同じく、空へ向けていた視線を墓らしきものへと移した。

「そうか、まあなら良いんだ。だが、“あんな戦い”があっただろ。
 俺ァ、お前が受けるわけはないとばかり思ってたんだ」

言葉に、少年は目を瞑る。何かを思い出すかのように。

「あの人は、自らが死ぬその時まで一族を案じて逝った――
 俺も、自分が死ぬその時まで、誰かを案じているような人間で在りたい。
 その為に、今よりも、そして何よりも強くなりたいんです」

そう言い終わると、瞑っていた目を見開き、懐から一枚のカードを取り出し眺める。
先日手に入れた銀誓館所属の証、イグニッションカードを。

「だが銀誓館はその土蜘蛛の女王を――」

「――良いんです。どうとも思ってないのか、と問われれば答は否ですが、
 それでも、きっと銀誓館も戦争が始まる前は何人かが手を差し伸べたはず」

だがそれを振り払い続けた結果、あのような戦いが起こったのだ。
互いに解り合えぬと諦め、思惑はすれ違い、そして滅ぼし合う。
戦いに正しさはなく、しかし人に正しさはある。要は、そういう事なのだ。

「どちらが間違っているから、だから憎い、だから許せない――
 そんな繰り返し、もう十分なんですよ。業火さん」

「……」

業火、と呼ばれた男が再び茜色の空を仰ぐ。
果たして、少年のその言葉は男にだけ向けたものなのだろうか。
自己そのものにも言い放った言葉ではないのかと、そう考えながら。

「俺はあの人を目標に、その背中を追い続けていきます。
 ですがそれは、あの人のように生きるのではなく、俺は俺の為にこの道を走りたいんです。
 あの人は自らを犠牲にして、土蜘蛛たちを護りました。だから俺は、
 誰の犠牲もなく誰もが平和に生きられる世界を、この手で切り開きたい。己の命を賭して」

カードから視線を外し、俯いていた顔を上げて静かに、しかし力強く呟く。
それを持っている手にも、少し力がこもっているようだった。
男がやや厳しい顔つきをし、少年の方を向く。

「そいつは――」

「――矛盾の理想だ、と」

彼の言葉に遮られ、男が口を噤む。

「承知の上です。犠牲のない世界の為に自らを犠牲にする、その矛盾。
 ですがその矛盾で誰かを護れるのなら、俺は迷わずこの道を往きます。
 願わくば、俺の犠牲がその螺旋の果てであってほしいと、その祈りと共に」

既に傷つき、赤く汚れ、ボロボロに破れてしまった旗のような理想、夢。
例えそうだとしても、それを掲げて生きていきたい。それが、

「俺なりの、償いなんです」

僅かの迷いもなく紡がれたその言葉に、男はため息をついた。
危うい――が、これはきっと言った所でどうにもならないだろう、と。

「やれやれ、そこまで言うなら何も言わねえよ。
 それと、ちと言い難いことなんだが……
 国見眞由璃の事だけどよ、お前が出会ったのはもしかしたら――」

「影かもしれない、と」

またも遮るように出た彼の台詞に、男がどこか意外そうな、驚いた顔をした。

「……わかってたのか?」

「ええ。女王という程の地位、影がいた所で驚きはしません。
 ですがそれでも、あの雨の日に出会った人は、俺にとって“国見眞由璃”だった。
 例えあの人が影だったとしても、俺にとっては真実(ほんとう)なんです」

そう。
呪いという糸が張り巡らされた、こんなカラクリの心でも憧れた――
時間という暗い砂漠の道を、明るく照らしてくれた――
どう進めばいいか迷っていた自分の背を、少しだけ押してくれた――
一緒にいたいという、叶わぬ夢を見させてくれた――

――たった一つの、存在。

「土蜘蛛の女王ではなく“国見眞由璃”と名乗った、たった一人の、女性なんです」

もっとも、とうの彼女は俺の事を覚えてるかどうかも怪しいですけれどね、と、少年が苦笑いをしながら続けた。
男は尚更のこと驚きが隠せないというように、目を見開いてる。

「……」

何も男が驚いたのは、
自分と出会ったのは影かもしれないという事実を、少年が気付いていた事ではない。
自分と出会ったのは影かもしれないという事実を、少年が受け止めてる事に驚いたのだ。

普通、自分にとっての大切なものが否定されれば、真っ先にその否定を拒絶するだろう。
恋人だろうと、家族だろうと、品物だろうと、思い出だろうと、それがニセモノかもしれないなんて事実、誰だって受け入れたくはない。
しかも既にこの世界からなくなっているものであるなら尚更だ。形として残っておらず、あるのは自分の記憶にだけ。だがその根本すらも否定されている。

それなのにこの少年は、その否定を否定せず、拒絶せずにしっかりと受け入れてる。
男は先ほど、今の彼は危ういと考えた。だが、案外そうではないのかもしれない。
危ういともとれるその在り方の中に、一つの強さがある――男はそう感じた。

「そろそろ、行きます」

沈黙を破ったその言葉に、男は思考の海から抜け出す。

「ああ……そうか。入学後も出来る限り旅は続けるんだったな。
 これからどこへ行くんだ?」

「まだ、決めてません。
 まずはどこへいこうか――」

問いに呟くように答えると、少年は懐へカードをしまった。
とある物が入った竹刀袋を肩からかけるようにして背負い直すと、
“国見眞由璃”が眠っている墓へ視線を移し、見据える。そして、

「――――じゃあ、行ってきます。眞由璃さん」

まるで自分の家から出かけるかのように、 穏やかな表情で静かにそう言ったのだった。

数年ぶりに見せたであろう、かつての笑顔と共に――

 
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